サイトへ戻る

story_08

東洋医学にのめり込んだきっかけー耳の鍼ー

中島:その経絡・東洋医学の素晴らしさ、きっと勉強というか研究なさっている中で、これはもうあくまで憶測ですが、その技術的な知識的なことだけではなくて、気持ちのところとか、考え方とか、そういうようなところにも素晴らしさを見つけられたんじゃないかと思うんですが、そういったところも含めて東洋医学ってあるようなイメージが僕にはあるんですが、どうでしょうか。

そういったところもやっぱりございますか?

向野:そうですね。
最初に私が鍼の研究を本格的にやりだしたのは、ある患者さんとの出会いでした。

三重大学行って大学院が終わって博士号取った後、外部に出張するんですけど、ある中堅の病院の内科医長をしている時のことです。
くも膜下出血の患者さんが入院してきて、すぐに緊急で大学に送って手術をしてもらったんです。それで、術後は私の方でフォローしようということで戻ってきたんですね。そうしたら、どんどん太ってきたんです。その患者さんが。

それで、大学病院では太らないように!と指導されたから、家族は食卓で食事する量を減していた。そうすると、「本人は勝手に買い食いをして全然どうしようもありません」と家族に相談されたんです。打つ手がないという。

だけど、僕らも打つ手はそんなに教えられてないですからね(笑)。
ちょうどその少し前に、私は中国に県から3ヶ月派遣されたんですね。鍼の勉強をしに行って来いということで。これは日本から17人ほど、市とか県単位で中国と関係があるところ(姉妹都市など)の医師だけが招待されて行ったんです。それに行って帰ってきたばっかりで、その患者さんに中国の耳の鍼を試そうと考えついた。

中嶋:耳の鍼?

向野:耳のツボを書いたやつ、模型を中国から持って帰ってきたんですよ。中国では習ってないんですけどね。耳に鍼をするときに使う画鋲みたいな鍼があるんですけど、それも持って帰って来ていました。

模型をよく見たら“飢餓点”ってあるから、これだったら食欲抑制するんじゃないかと思って。
それで、試しにその画鋲みたいな鍼を耳に刺して帰宅してもらったんですよ。それで1週間後に患者が来ましてね、「先生、4キロ痩せました!」って。

中嶋:えー!(驚)

向野:びっくりしましてね。
それで、僕はその時に別の場所で同じことが起こるんだろうかと思いまして。ただ耳に刺すだけで効果があるのか、それとも耳の飢餓点という場所が特異的なのかと。それで耳の別の場所に打って帰したんですよ。その日は。
そして4日後戻ってきました。元に戻ったって言って(笑)。
それで、この患者さんに耳の鍼のお話して、そうしたら本人が入院すると言うから入院してもらってどこに食欲抑制する場所があるかというのをその人で調べたんです。
それで、いろいろと研究して学会発表したら、それがジャーナリストの目に止まって取り上げられて、僕は有名になったんです。
それで、最初よく電話かかってきましてね。小川宏ショーとかいうのが昔あったんですけど、そういう番組から電話かかってきて是非出てくれと。でも全部断って。

耳の鍼で痩せるという風に勘違いされてもらっては困るわけで、やはり痩せるための基本条件というものがあって。まぁたまたま食欲が抑制できるということがあるから、サポートするにすぎないわけですけどね。それなのに・・・と思ってテレビ出演しなかったわけです。
だけど新聞、ジャパンタイムズなどには大々的に出たわけですよね。だから患者さんが・・・すごくたくさん来て・・・。

中嶋:“痩せたい”と言ってくると。病気じゃないんだけど痩せたいと。

向野:それで多くの患者さんを肥満に対して治療する過程で、またいろんな現象もわかったんです。
それで、だんだんそうなってくるとメカニズムを知りたくなって、メカニズムを知るためには頭に満腹中枢と摂食中枢(食欲中枢)ってあるんですよ。

中嶋:これは西洋医学で言われている神経ですよね?

向野:そうです。
それで、満腹中枢を壊すと満腹感がなくなってラットがお化けみたいに大きくなるんですよ。もう食べて、食べてどんどん食べてね。そのラットが肥満の研究で西洋医学で使われているんですよ。
「このラットに鍼をしたらどうなるんだろうか?」と考えてそれをやり始めたんですよね。その時に何も手立てはないし、お金もないですよ。まだ出張病院にいましたからね。
そうしたら、武田製薬の中央研究所でサポートしてくれるということになりまして、夏休みに武田製薬の中央研究所ってところまで行きました。

その肥満ラットは、武田製薬の研究チームのプロがほとんど作ってくれました。僕はそばで見ていただけでした。頭蓋骨から針を入れて、ステレオタキシックですから、いわゆるノギスの立体版みたいな道具を使って場所を的確に決めてそこに鍼を刺して電流を流して満腹中枢を破壊するんですよ、頭を固定してね。そのラットを三重大学に送ってもらったんです。そこでラットを飼育しながら鍼をする過程でその鍼が摂食中枢を抑制するということが分かってくるんです。

broken image

ちょうどその研究をやっている最中に、福岡大学(以下、福大)の就職が決まって、福岡に帰って来いと。帰って来いってひと月前に言われまして・・・。それで、その研究をたたみました。

ただ、それまでの研究成果はそれなりに報告しましたけどね。
その時に、研究というのが一点の刺激だけだから西洋医学の考え方で研究できると思ったんです。

中嶋:一点だから西洋医学の考え方で研究ができる?

向野:ツボ一点刺激すればいいわけですから、あとはメカニズムは西洋のものの見方でやれるわけです。

中嶋:そこを1点を刺激するということは、とある神経に働くと考えてという意味ですか?

向野:そうそう。
鍼をするとそこから求心性の刺激が入って、刺激が満腹中枢とか摂食中枢に行って、そこから信号が変化させられて食欲が抑制されるということですから。そういう仕組みを、その後に生理学の先生の中で明らかにした方がいます。だから耳に刺激をすると、その摂食中枢とか満腹中枢の電気信号がどうなるとか、ある程度耳の鍼が効くメカニズムというのが少しわかってきたんですよね。

中嶋:なるほど。

向野::そのアプローチは非常に興味はあって、猿でやれとか色々言われたんですけどね。

でも私は、やっぱり本来は「経絡」ということがこの治療法の最たるものなんだと思うんですよ。ツボ刺激が効くのかというよりも、経絡そのもののものの見方を解決しないと東洋の考え方を広めるということに繋がらないと思う。

中嶋:なるほどそうなんですね。