サイトへ戻る

story_09

東洋医学は複雑系 西洋医学の中での葛藤と転機

中嶋:今の耳の話は、どちらかと言うと1点を刺激して神経に電気信号が走ってということですね。

向野:これは、西洋医学の中でもできるんです。

中嶋:同じように電気信号的なものが、経絡と呼ばれるところの神経の集合体と言うか、通り道のようなものなのかなと思ったりするんですよ。

向野:そこまで今の科学というか、医学は進歩してないですよ。
それで、例えば先程の栗むきのケースでは、栗をむく際に手の関節のここの関節を動かして、ここが動いて、ここも動いて、ここに力が入って、さらにここに力が入ってという、その影響を全部を明らかにするようなシステムはないんですよ。

一個一個考えて行くんです。パーツごとに考えていくのが今の医学なんです。だから手首は手首だけ、肘は肘だけ、肩は肩だけというものの考え方をしますよ。基本的にはそれです。
ところが、東洋は最初から全部連続として機能単位で見ているわけです。しかし、それは科学じゃない!と言われてしまうんです。一個一個細かいことがわからないから。それでたくさんの条件が入ってくるから科学ではないと。

中嶋:はい・・・解明するには複雑すぎると?

向野:そうそう。複雑系と言われているわけですよね。
それを証明するようなシステムがまだないんです。
そうすると、そのリサーチというか、研究に一生懸命力を入れても人間の感覚でとらえているものを今いろんな科学で見つけて証明するのは結構難しいんですよ。まだ・・・。

中嶋:今、スーパーコンピューターとかも発達して、ヒトゲノムも解読できるぐらいなのに・・・。

向野:パーツはできますよ、パーツは。

中嶋:連続になるともっと情報量が増えるんですか?

向野:組み合わせもいっぱいあるからね。

中嶋:ヒトゲノムどころではないわけですか?

向野:と思いますよ。それで、そのへんは大昔の人は観察で残してるんでしょ、観察で。

中嶋:相当昔に経絡の道筋とか考え方とか出来上がってるわけですもんね。すごいですよね。

向野:ただ、なかなか普及しづらかったのは、僕みたいに動きで分かりやすく説明できるシステムが今までになかったんです。難しい言葉で説明するからなかなかわからないんですね。
ただ体を動かすということであればみんなの共通理解が可能ですから、ほんの少し理解していただける。みんなができるようになると。
最終的に、そういうところへ一点刺激からいろいろ展開して行くんです。

中嶋:一点刺激、耳の研究からはじめて、それからまた今度はテンションですかね、負荷。これを発見したのも。

向野:これは医学部ではできなかったんですね。
結局医学部で夢破れて、もう辞めようと思って。

broken image

中嶋:それはいつの話ですか?

向野:ちょうど体育に行く前ですから、平成元年の前で昭和60何年かですかね。

元年に体育に移りましたから、その前に病院を辞めるように自分で決めてて。

中嶋:なんですか、その夢やぶれてというのは?

向野:いやもう結局、腎臓でもだんだん上に上がってくじゃないですか。その医局の中でも年齢的に上になっていくと医局長をするし、それから常に病棟医長とか腎センター長とか、それから外来医長とか毎年順繰りでやらないといけないわけです。

それで、医局長とかなるとものすごくストレスが大きいですね。部屋は一個与えられますけどね。

常に60人ぐらいの医局員がいて、その人達のアルバイトの管理から、クレームまで全部受け付けなきゃいかんから・・・いろんなところからクレームが来ますからね。看護師さんからは来るし、アルバイト先からは来るし。それで、教授のところに人を送ってほしいって言ってきたら、その交渉も全部僕に回されますからね。朝一番に行って教授に会って今日の指示を聞いて動く。そんな生活なんですよ。それを2回目やれって言われたんですよ。

それで打診があった時に、もう逃げ出そうと思ったんです。

「俺、ずっと頑張っとったら腎臓のトップになるかわからんけども、そんなやりたくもない研究をいっぱいやらないといけないし、もうそろそろ自分がやりたいことをどこかで場所を変えても実現した方がいいんじゃないか」って思い始めて。

ちょうどその時に体育に誘われて、当時の体育学部長に体育学部について色々話をされたけども、「僕は体育については何も知りませんよ」って言ってたら、いやそれでもいいって。

学部長に「鍼だけでいいですか?」って聞いたんですよ。そうしたら「いい」って言ってくれてね。

それで体育の学部長から言われて行く気になっていたら、すぐに所属する医学部の教授呼ばれて、「こういう話が来ているけど1週間以内に返事しなさい」って。教授は自分が一番先に聞いたと思っているけど、僕が先に聞いていたんですけどね(笑)。まあそれは黙っておいて、心の中で「ちょうどいい機会だ、向こうに行ったら何でも自分の好きなようにやっていい、なら鍼だけで」と思って。

そうしたらその後、行くような話がどんどん進行し始めた時に医学部長から呼びつけられまして。医学部長はカンカンに怒っているんですよ。「俺はこの話を聞いてない!」って。

それで、「向野君、君は非常に特徴のあることをやっているのに、それでいいのかね?」と言うから、僕は「それでいいんです」ってね。

中嶋:学部長の「特徴的なことをやっているのに」っていうのは?

向野:僕は普通の外来以外に、鍼の患者もいっぱい診ているというのは医学部長も知っていたわけですよね。そういうことはみなさんだんだんと知ってくるんですよ。「腰が痛い」と言ったお医者さんがいたらすぐに治療をしてあげたりとかしていたからね。看護師さんなんかで困った人が僕の外来に来たり、もう終わろうかなーと思った時に電話かかってきたりして診たりしていたもんですから。病院の中では、僕が鍼をしていることは浸透していたわけですね。

それで、いざ向こうの体育学部に行くようになった時に、病院も兼務しろという話になって、その時に「腎臓の兼務はせずに鍼に特化すれば、自分は鍼だけ、やっと鍼だけをやれるようになるな」というふうに思ったんです。

そして、やっと体育に移ることで医学部で成し得なかった身体の動きということに気づいていくんです。

中嶋:そこでさっきの体の動きが出てくるんですか?

broken image

向野:そうです。
だってスポーツ選手って、いつも治療に来るときに、「こうしたら痛い」って言ってくるんです。“こうしたら痛い”と言うのが一番わかりやすい。
バレーボールの選手が、「スパイクしたら痛い」って言って来るでしょ。

肩を診てもどこにも異常がないけれども、よくよく話を聞いていくと、実は数日前に相手のスパイクをブロックしようとジャンプして、着地するときに下に人が滑り込んできたものだから避けようとして転倒した。その時に足首と膝をちょっと打ちましたと言うんです。だけど足首と膝は、全然何ともありませんと言う。それでも気になるから、そこを軽く押さえてみたら痛がるんですよ、ものすごく。その押さえて痛がる足首の場所は、スパイクをした時に痛みが起こっている肩と同じルート上にあるんです。つまり、足首のポイントも肩のポイントもルートの一部なんですよ。

中嶋:経絡の?

向野:そう。だから、足首に鍼をしてから、「すぐにスパイクしてください」って指示をした。体育館の中に診療室がありますから、すぐにスパイクはできるんです(笑)。

そうすると、肩は全く痛くないというから。
だから結局、経絡の中のどこか一部に、自分でも気がつかない異常があった時に、それが引き金になって経絡全体のテンションを上げてしまうんだと推測した。

そういう自分では気が付かない異常が、痛みの原因になってしまっている患者さんが非常に多いんですよ。実は、骨までやられているとか、腱までやられてるという人は非常に少ないんですよ。

中嶋:そうなんですか。

向野:だから医療の無駄もおそらく減ってくると思うんですよね、このシステムを取り入れると。実際に検査もしなくていいというか、この方法で症状がで取れてしまう人はまず検査する必要がないんですよ。

中嶋:よくまぁ加齢に伴いいろんな関節に痛みがでる方も多いと思うんですよね。関節とか膝とか原因がわからないこととか多いじゃないですか。そういうのももしかしたら、おそらく腱とか筋とかじゃなくてどこかの経絡のテンションが上がってて、そこに痛みが出てるという可能性があると。

向野:そうでしょう。

中嶋:そうなんですかー!!
先生、僕も本当膝が痛いんですけども。
私も父も膝を痛がってて、まあ最初は水が溜まってたりしてて、それを治した後は経過が良好なんですけど、だけどまだ痛いみたいな。

向野:だから、やっぱり動きの負荷をしてどうしたら痛いかということを把握できれば、だいたいどうすればいいかという道筋がわかります。

中嶋:うわー、じゃぁこういうテンションで痛い時は、「ココとココとココの経絡を疑え!」みたいな?

向野:そうです、そういう内容の本が最初の『経絡テスト』。
それをだんだんそれリファインして行って、最新の本が去年出版した『M-Test』というタイトルの本。

中嶋:そうなんですね。
うあーー、そういう世界があったこと自体を私は初めて知りました。

向野:いやいや、それを是非広めないといけないんだけどね。

中嶋:先生、今後はこれまでの研究と、次世代の方々との研究もそうですけども、そうやって広める活動とか、東洋医学の考え方、そしてテンション、歩まれてきた研究の道筋自体を講演していくとかいうことも非常に広報として必要になりますよね。

向野:そうですよね。
海外でも今までに少しセミナーをやったりして来ましたからね。

中嶋:そうなんですね。

broken image

向野:アメリカで2回ぐらいしてます。それからヨーロッパは、チェコとポーランドとイタリアとドイツにも行きましたね。イギリスでもやりましたし、サウジアラビアでやったり。

中嶋:ふーん。
サウジアラビアで経絡とか言ってもみんなわかるんですか?

向野:いやいや経絡の話はしませんよ。(笑)

中嶋:そうなんですね。

向野:動きで説明するんです。

中嶋:でも、動きでココが痛いときは、この経絡と呼ばれる道筋のココのツボに何とかという話になるんですか?

向野:いやその時はもう、「面」として話をします。
体の前面と後面と側面、その3つの面だけわかったら全部説明できる仕組みになっています。だから経絡という言葉は、将来的には使わなくてよくなるかもしれない。

中嶋:なるほど。

向野:それを今の医学の詳しいいろんな分析方法と照らし合わせながら考え、もっとわかりやすい仕組みにできないかとは思ってはいます。

中嶋:なるほどですね~。
経絡と言うまだ発見されていないルートとは違うもので説明できるようになればと。

向野:まあその経絡が、ルートの本体がわかればなおいいですけども、それに至るまでには相当時間がかかるでしょうから、それまでの間に上手にみんながこの経絡がベースとなった考えを使えて、その有効性を享受できるような仕組みが展開したらいいなと思うけども、なかなか世の中は大変ですね。動かないですもんね。

中嶋:向野先生のお話を聞いていると、まだ夢半ばかもしれないんですけど、いくつかの達成したポイントがあるというのはとっても羨ましいと言うか、素敵ですよね。何かひとつ成し得たことがあって、今まで知らなかったことが明らかになってということは素晴らしいなと思います。
とても興味が沸きました。
僕自身、膝が痛いのはなんでか、どうやったら治るのかといつも思ってますもんね(笑)。

向野:一番簡単なのは・・・正座したら痛いですか?

中嶋:正座は痛くないです。

向野:そうしたら、伸ばすほうが痛いんですね。おそらく足首を反るとふくらはぎが突っ張るとか、それはないです?

中嶋:まぁ、ストレッチとかはするんで、どちらかと言うと走ったり歩いたりするときに、まっすぐ歩こうと思って左足をちょっと内向きに入れると痛いんですよ、膝が。

向野:側面かな? そうするとあぐらをかくのがきつい?

中嶋:あぐら?いやきつくないですけど。
ただ、確かにストレッチの時にそういう動きをすると左足だけが痛かったり、伸びなかったりしますね。

向野:そうしたら、要するにどこか伸ばす動きをした時に症状が出たら、その伸びが悪いということなんですよ。本来は起こらない症状が起こってくるというのは。だから、それを解決してあげたらよい。

中嶋:そうなんですね。
いやー、解決したいですね。ぜひまた教えてもらいたい、診てもらいたいですね。