サイトへ戻る

story_10

心に残る文集『熾群(しぐん)』

医学部時代の文集への投稿、それが先生のベースとなっているという。

“気候”がものの考え方を支配する。西洋と東洋の考え方の違い・・・

向野:これは医学部の学生の時のクラスで文集を出版してるんですけどね。
その3巻目です。これが手元に残ってたんです。
3巻目の時は僕が医学部の4年生ですけども、ちょうどその時に「東洋医学」というタイトルでを投稿したんですね。それに僕の文章が残ってました。捨てずに良かったです。
ここに当時の僕がどういう思いで東洋医学を見てきたのか、というのを若干書いているんですね。
文章の最後の所にどうすべきか、ということ二つを主張したいというのがあって、18ページの最後から7行目にこう書いているんです。

『また哲学が問題を発見し、科学が解決するのであるが、東洋医学の正しい理解は、東洋哲学が想起した独自の生命観、世界観の解明でなければならない。

しかも単に東洋の西洋科学化であっては決していけないであろう。

なぜなら、原理出発点の異なる東洋と西洋を簡単に結婚させ、東洋を西洋の理論で安易に置き換えることは、東洋の独自性の否定という大きな危険性を孕んでいるからである』

broken image

中嶋:なるほど~。

向野:おそらくこれが僕のベースになってるんだと思うんですよね。
だから、例えば耳の鍼を突き詰めて研究して行ったらそれだけで有名になったかもわからないけれども、実はそれは東洋医学ではないんですよね。耳の鍼のメカニズムというのは。
そこが自分としては満たされないから。

中嶋:うわー、なるほど。
そこは曲げられないというか根本的に心の中にあったんですね。

向野:だからそれは医学生の時にあったということですね。

中嶋:でも、本当に僕も少し想像で話しました東洋哲学を理解しないといけないというのはやっぱりあるんですね。そういうところが。
東洋哲学、その考え方とか心の持ち方とかそういうところの特徴とかは?

向野:特徴ね。僕もわかってるわけではないんですが。
前述した、和辻哲郎の『風土』の中に、結局“気候”がものの考え方を支配するっていうことが書かれているんです。
気候を3つに分けるんですよ。西洋は牧場のイメージで話をするんです。それと砂漠、そして東洋はモンスーンなんです。
結局、牧場っていうシステムの中では、非常に何でも豊かにいろんなことが展開する。天に対する恐れはないという考え方で。それで西洋科学みたいなことが生まれてきたんだと思う。
東洋は非常に厳しい気候の中であって、天を敬うってと言うか自然界を敬うっていう発想が生まれてきたんではないかという、そういう風な話だったと思ってるんです。
もうよくお覚えていないですが。昔のことですからね。
だから、おそらく自然の中で生かされてる人間というのを考えていく、観察をしっかりしていくっていうこと。で、西洋というのは、パーツに物を分けて考える仕組みですからね。要素還元論って言うんです。

中嶋:要素還元論?

向野:全てのものは細かく切り刻めば全てが分かるという。
だから遺伝子レベルまで切り刻んでいくわけです。
だけど、いくら切り刻んでも分からないことは分からないから。
要素還元論ではわからないということが。

中嶋:わからないことがあると。なるほどですね。

向野:それが東洋で生まれた考え方というのは、最初からその要素還元論ではないんですね。
それはいろんなことが発達しなかった性もあるんですけどもけどね。
人を診る目も全然違いますよね、西洋医学と。

中嶋:なるほどですね。
どっちがいいとかどっちが悪いという話ではないですけどね。
確かに今、いろんなことが科学で、さっきヒトゲノムの話もしましたけども、最近は宇宙のこと、ダークマターのことも分かり始めたみたいな話とかもあったりして、西洋科学の方式がどんどん神秘的なところまで解明するという中で、いつかは経絡が西洋医学ではないんですけども、科学的に、しくみ的に何か朗らかになる時も来るかもしれないということですか?

向野:そうですね。

中嶋:西洋医学とはまた違うまた別のルートで?

向野:最近やった仕事なんですが、透析患者、血液透析をしている人は、腰痛や脚のむず痒さなどなど1人で20ぐらいの症状持ってるんですよ。
それを西洋医学のやり方でやると、個々を別々に検査して薬出して、とかそういう形になるじゃないですか。

中嶋:そうなんですね。

向野:ところが、この人たちの症状は体の動きを診て経絡を使った方法論で治療してあげると、症状は一斉に無くなるんですよ。

中嶋:へー、そうなんですか。

向野:だから結局、症状の基礎に眠っているというものは、その日常の生活の問題でもあるし、病気がそれに絡んできていることもあるけど、そこら辺のことは、東洋の方の考え方の方が非常に有効というか。

中嶋:有効ですし、速いですし。

向野:また患者さんにとっても助かる。それにお金がいらないっていう点では、透析医療の場合は、“まるめ”って言ってどんなことをやっても同じお金しか出ないんですよ。だから薬使わないでいいと費用をかけないですむからお金を負担している保険者の側としても助かる。

中嶋:どっちもありがたい?

向野:だからまあ動きだけでやってもらうのもそう悪くはないということになりますけどね。

中嶋:なるほど、なるほど。
いろんなところで東洋医学、経絡ですね。
今後もっと市民権を得て身近なものになっていくんじゃないかと思います。
ありがとうございました。

2015年5月20日

話し手:向野 義人

聞き手:中嶋 一顯

 

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

本来は、向野先生がご退官される際にと思い録音していたものだったのですが、だいぶ遅れての公開になってしまいました。

現在、向野先生は、福岡市内のクリニック等で東洋医学外来を担当されています。また、ご講演などを通して東洋医学、特に鍼灸、M-Testの普及にご尽力されています。

2019年11月3−4日には、沖縄はりきゅうフェスタでご講演されます。ぜひ足を運んでいただけたらと思います。

企画・編集担当:山下なぎさ